馬鹿ばかりでうんざりだ

馬鹿ばかりでうんざりだ。頭が悪いから俺の能力を理解できないのだ。アルバイト先のコンビニで客と揉め、首になった。店長は俺の有難さを分かってない。俺がいないと完璧なホットスナックの配置を誰が管理できるんだ。

昔から俺の事をよく理解できる人はいなかった。親も中学の教師も地元の高校を勧めてきたが、俺が何の目的もなく進学する他の奴らと同じ様に見えていたのが気に食わなかった。その反発心から寮制の高校に進学した。卒業後はフリーターを何年か経験した。気まぐれで、プロ雀士の試験を受けてみると一発合格した。天職だと思った。しかしデビューしてからは引きが悪く、3年ほど粘ったがまた元のフリーターに戻り、その生活をずるずると続けていた。もう少し親からの資金援助もあればトップ雀士だったはずだ。

バイト帰り、趣味の競艇で勝った金でスーパーのパック寿司とビールを買う。寿司は半額になるまで待つ。これが資産経営だ。俺が政治家になったらすぐに国債はゼロにできる。

そこで俺は立ち上がった、一念発起だ。地元の市議会議員に立候補したのだ!俺の人生はこれから始まる。大器晩成とはよく言ったもので、今までは周りの環境に恵まれなかっのだ。自分の人生は自分で開く。失言してしまう馬鹿と頭の硬い年寄りばかりが当選するんだ。まだまだ若手の俺が当選しないはずがない。

時代はネットだ。SNSを上手く活用する者がこれからを生き抜くことができる。ツイッターにアカウントを作成し、とりあえずプロ雀士だった頃の知り合いをフォローしまくる。1000人近くフォローして、フォローが返ってきたのは307人。こいつらがリツイートしないから俺もフォロワーが増えない。気の利かない奴ばかりだ。「選挙活動にかかる経費も税金。選挙はお金ではなく熱意と行動力。」とツイート。いいねは自分で押した1から増えない。

選挙管理委員会から連絡があった。選挙広報に載せる資料を提出しないのか、というものだった。チャート図にびっしりと公約を書き込んでいるあれか。他の候補達は本当に馬鹿ばかりだ、広報なんてシンプルに書いときゃいいんだ。俺が当選したあかつきにはそういった無駄を全部無くしてやる。何せ俺には強い信念がある!それが伝われば俺も晴れて政治家だ。そして選挙広報には「若い人!頑張る人を応援!無所属中井たかあき53才」とだけ走り書きを提出した。しばらく経った公示の日に選挙候補の一覧が広報された。他と比べるとやけに白地が多い自分の枠はたしかに目立つが、質量はなく、ふわふわと浮いているようにも見えた。